さくら心中・桜の木と桜子の終わりと始まり
「さくら心中」は毎回楽しみに見ていた東海テレビの昼ドラでした。ドロドロの要素も多々ありましたが、それ自体がテーマなのではなく、周囲の人々を傷つけ振り回してしまうほどピュアで命がけの恋愛と、女性主人公が自分の子どもを守り抜くための母親としての壮絶な忍耐が描かれた物語と認識しています。
最終回はまず、主人公の桜子(笛木優子)が実家の桜の木の根元で、家族に見守られながら、彼女が本気で愛した唯一の男性、比呂人(徳山秀典)の名前を呼びながら亡くなる場面が描かれています。比呂人はその数年前に、彼を強烈に愛した女性(中澤裕子)に無理心中をさせられ、やはり、さくら子の実家の桜の木の下で亡くなりました。
この場面を見て、やっと桜子と比呂人の二人は結ばれるのだと安堵する気持ちと、現世では結ばれなかった二人について可哀想だと思う気持ちがありました。そして、桜子の最期を看取り、彼女を無償の愛で支え続けた義兄の勝(松田賢二)の姿がどうしようもなく切なく感じました。彼の思いも現世では叶うことはなく、それでも一人の女性を見返りを求めず愛し抜いた勝に、深く感動しました。
桜子の死とともに、桜の木は枯れてしまいます。桜の木の下で、二人や彼らをとりまく人々はいくつもの修羅場を経験してきました。それにやっと終止符が打たれるのだと感じました。
桜子の死とともに最終回で描かれているのが、桜子の娘、さくら(林丹丹)と陸雄(佐野和真)カップル、桜子の義理の息子の健(真山明大)と豊香(小野真弓)カップルの、希望ある未来を予感させる展開です。桜子が死ぬ気で守り抜いたのが、さくらをはじめとした子どもたちの未来です。四人の若い男女が、それぞれに自分のパートナーを見つけ、様々な試練がありつつも、それを乗り越えられるカップルに成長したことは、桜子の想いが実り、その優しい愛が受け継がれていくようで、うれしかったです。
最後の場面では、枯れたはずの桜の木に二つの新芽が出ています。これは、桜子の想いが子どもたちに受け継がれていく未来、来世でまた桜子と比呂人が巡り会えることを示しているのかもしれないと感じます。
人間なら誰しも持つ欲望や、嫉妬心などを赤裸々に描き、悲惨な出来事も多く描かれた「さくら心中」ですが、未来や来世に引き継がれる希望や愛を予感させるラストに、一つの救いが見出せる気がしました。
このドラマがただのドロドロした作品になっていないのは、とくに、桜子と比呂人を演じている、笛木優子さんと徳山秀典さんの、透明感のあるたたずまいと、演技によるものと思います。最終回まで、このお二人のさわやかさが大好きでしたし、このお二人が主演だったからこそ、最終回まで見通せたのだと思います。