寄稿を頂きました。
大飢饉 本宮ひろし
1981年4・5号と6号に前後編で掲載された、天明の時代に起こった大飢饉の様子と、飢えに苦しむ人々のドラマが描かれた作品です。
農民にとって生命線そのものである種モミや、家族同然であった家畜までをもを食いつくし、ついには土がゆをすすって何とか生き延びようとあがく姿が克明に描かれてゆきます。
終わり無い飢饉と飢餓にさいなまれる人々は、やがて僅かな食糧を奪い争いあうようになり、本当に何もかも食べるものがなくなった果てに、人としての心を失い、(獣のように)人肉を食べるにまで至ってしまいます。
ストーリーは主人公の男性が食糧を調達に行っている間に、恋人の女性が(獣のような)別の男に凌辱されてしまい、その男の子供を宿してしまう…というこれまたハードなもの。
恋人は子供を出産し、隠しておいた米を赤子に食べさせて欲しい、そしてあなたは私の体を食べて生き延びて欲しい、と言い、自害します。
しかし主人公は恋人を食べる事はせず、赤子を取り上げ、「この子は獣じゃない、餓鬼じゃない!人の子だ!」と言放ち、穢れのない白い雪のように、という意味のこめられた「雪(せつ)」という名を贈ります。そして残された家族と共に、この子を育て上げると誓い、旅立ってゆくのでした。
ここのクライマックスに、人の心を無くした「獣」と、どんなに極限の状況に置かれてもタブーを破る事無く、強い意志を持ち、「人」であり続けた主人公との対比…この作品のテーマが描かれています。
飽食時代の日本に生きる私達だからこそ、また、大災害が起こった時に、苦しみながら壊れてしまう人の心についても考えてもらうために、一度目を通してもらいたいと思う作品です。